なぜ AI スタートアップが Supabase を選ぶのか、そしてその限界
Supabase は AI スタートアップに素早いバックエンド構築を提供しますが、堅牢な認証・認可には欠けます。Logto と組み合わせることでどのようにスケーラブルで本番運用可能なスタックになるのか解説します。
Supabase とは?
Supabase は、オープンソースの Backend-as-a-Service (BaaS) プラットフォームであり、AI スタートアップやインテリジェントなアプリケーションを開発する開発者の間で急速に人気を集めています。「Firebase のオープンソース代替」とよく表現されるように、Supabase は PostgreSQL データベース、リアルタイムサブスクリプション、認証、即時 API、ストレージを統合した、開発者体験と迅速なデプロイを重視したプラットフォームです。
PostgreSQL、PostgREST、GoTrue、Realtime などのエンタープライズグレードのツールの上に構築された Supabase は、SQL データベースのパワーと現代 Web 開発のシンプルさを両立します。プラットフォームはデータベーススキーマから自動的に RESTful API を生成し、リアルタイム機能も標準搭載―AI 企業が素早い反復開発を必要とする場合に特に魅力的です。
なぜ AI スタートアップが Supabase を選ぶのか
開発速度の速さ ― 最大の魅力
Supabase のスローガン「週末で構築、数百万へスケール」の通り、Supabase の最大の魅力は開発サイクルを圧倒的に短縮できる点です。スピードが重要な AI 業界では複雑なバックエンド構築で足踏みしている暇はありません。Supabase を使えば、AI 開発者はデータベースや認証システム、API の設定に数週間かけることなく、コアとなるプロダクト開発やユーザー体験に集中できます。
起業家の友人も「テストや素早い方向転換が不可欠だからこそ、開発スピードがとても重要」と述べていました。Supabase のクイックセットアップ、オールインワンサービス、手ごろな価格設定は、スピード重視の開発者に大きなメリットです。
スタートアップ向けコスト効率の良い選択肢
セルフホストの AWS やエンタープライズ級の他サービスと比較しても、Supabase はスタートアップの予算に合 った魅力的な価格設定を提供しています。無料枠が充実しているため、AI 企業は初期インフラコストなしでプロトタイプやアイデアを検証できますし、スケール時も予測しやすい明瞭な料金体系です。
たいていの AI スタートアップは限られたリソースの中、運用経費を抑えることで AI モデル開発や人材確保により多くの資金を回せます。
AI ワークロード向けの PostgreSQL 基盤
Supabase の PostgreSQL は、AI アプリに適した複数の利点を持ちます。PostgreSQL の JSON 型、先進的なインデックス、pgvector などの拡張は、埋め込み情報やモデル出力、複雑な AI 生成データ構造の保存にも対応。多くの AI 用途で複数の専門データベースを用意する必要がなくなります。
AI 時代ならではの開発スタイル
興味深い現象として、AI モデルが Supabase を利用した膨大なコードで学習されているため、AI コーディングアシスタントは Supabase 関連のコードを高精度で生成できる傾向があります。この好循環により、AI 開発者は AI ツールを効果的に活用して Supabase 上により速く構築できるようになり、さらなる開発効率化が進んでいます。これこそがエコシステムから積極的に採用される製品を作るということです。
BaaS エコシステムにおける Supabase の立ち位置
Supabase vs 従来型クラウドサービス
AWS など従来型クラウドに比べ、Supabase は開発者体験とセットアップの簡単さで大きなアドバンテージがあります。AWS は細かな制御やエンタープライズ機能を備えますが、小規模な AI チームが迅速な開発を目指す時にはその複雑さが障壁となりがちです。Supabase は多くの複雑さを抽象化しつつ、AI アプリが必要とする基本機能はしっかりカバーします。
ただし、このシンプルさ故のトレードオフもあります。大規模な AI 企業では、成長に伴いより専門的なサービスが必要となる場合が多く、最終的に伝統的なクラウドへ移行するケースも見られます。
軽量な代替サービスとの競争
Supabase は他にも開発者フレンドリーな Fly.io、Railway、さまざまなサーバーレスソリューションなどとも競合しています。各プラットフォームに強みはありますが、データベース・認証・リアルタイム機能が一体 化している点で、Supabase はフルスタックな AI アプリ開発で優位性があります。
ベクトル検索に限定すれば、Pinecone や Weaviate などの専門サービスを Supabase の pgvector の代わりに選択する AI 企業もいます。特に大規模な類似度検索が必要なアプリで顕著です。
市場ポジション: SMB 対 エンタープライズ
Supabase は、スモールビジネスやスタートアップ、個人開発者を主なターゲットとして、迅速な開発・デプロイが必要な企業への提供に長けています。
一方で企業の成長と共に要件が高度化し、権限管理や複数テナント対応、コンプライアンスなどエンタープライズ向けプラットフォームが得意とする機能が必要になる場合も多いです。
Supabase の料金構成
無料プラン ― AI プロトタイプに最適
プロトタイプ・テスト・小規模プロジェクトに最適。
- API リクエスト無制限
- 月間 50,000 MAU (アクティブユーザー)
- 500 MB データベース容量
- 共有 CPU・500 MB RAM
- 5 GB 帯域幅
- 1 GB ファイルストレージ
- コミュニティサポート
- 1 週間利用がなければプロジェクトは自動で一時停止
- 2 つまでのアクティブプロジェクト制限
AI チームはインフラコストを気にせず MVP を構築・テストし、市場適合性を検証できます。多くの AI コーディングエージェントが Supabase 連携に対応しています。例えば Lovable 上でフロント・バック両方を設計し、Supabase をデータベースにできます。
Pro プラン($25/月~)
本番運用を想定し、スケール余地のあるアプリに一番人気。
- $10 分のコンピュートクレジット込み
- 無料プランの全機能+:
- 月間 100,000 MAU(以降は $0.00325/MAU)
- 8 GB データベース(超過分は $0.125/GB)
- 250 GB 帯域幅(超過分は $0.09/GB)
- 100 GB ファイルストレージ(以降は $0.021/GB)
- メールサポート
- 毎日バックアップ(7日間保存)
- ログ保持(7日間)
Team プラン($599/月~)
SSO・バックアップ管理・コンプライアンス対応が必要なチーム向け。
- Pro プランの全機能+:
- SOC2 準拠
- プロジェクト単位・読み取り専用アクセス
- HIPAA 対応(有料アドオン)
- Supabase ダッシュボード用 SSO
- 優先メールサポート・SLA
- 毎日バックアップ(14日間保存)
- ログ保持(28日間)
エンタープライズ(カスタム料金)
大規模かつ高負荷なアプリ向け。
- 専任サポートマネージャー
- 稼働率 SLA
- BYO Cloud(持込みクラウド対応)
- 24×7×365 プレミアムサポート
- プライベート Slack チャンネル
- カスタムセキュリティ調査票への対応
AI 製品向け Supabase の認証機能
基本認証方法
Supabase はユーザーデータやパーソナライズ体験を扱う AI アプリに適した認証機能を備えています:
メール/パスワード認証
- セキュアなユーザー登録・ログイン
- パスワードレス認証 ワークフロー(AI アプリでは重要)
- パスワードリセット
- カスタム可能なメールテンプレートによるブランド体験
OAuth ソーシャル認証
- Google, GitHub, Discord, Facebook 連携
- Apple, Twitter, LinkedIn 等対応
- 1 クリックでソーシャルログイン実装
- ユーザープロフィール自動同期でパーソナライズした AI 体験
マジックリンク認証
- メールによるパスワードレスログイン
- AI ツールに最適な優れたユーザー体験
- セキュリティリスク低減
- クイックアクセスが重要な AI アプリに最適
高度なセキュリティ機能
Row Level Security (RLS) AI アプリに不可欠な RLS ポリシーにより、ユーザーごとに独自データ・会話・AI 生成コンテンツへだけアクセス可能となります。ポリシーはデータベースレベルで動作し、ユーザー間の AI 操作や個人データを強力に隔離します。
JWT トークン管理 JWT トークンの自動生成・検証、失効時間のカスタマイズも可能。外部 AI サービス向け API 認証も安全に行え、複雑な AI ワークフロー全体でユーザーコンテキストを維持。
多要素認証 (MFA) TOTP ベースの MFA を標準サポートし、機密性の高いデータや高度な AI モデルへのアクセス提供時も安全です。
Supabase の制限事項と注意点
Supabase はデータベース・ストレージ・認証・サーバーレス機能などを標準搭載した開発者フレンドリーなバックエンド基盤ですが、エンタープライズレベルのアイデンティティや認可 には著しい制約があります。
OIDC プロバイダー機能が未対応
Supabase は OpenID Connect (OIDC) プロバイダー として動作できません。つまり:
- Supabase を使って他システムへアイデンティティを連携すること(=他アプリ向けの中央 IdP として使うこと)はできません。
- Supabase は第三者クライアントで利用可能な標準準拠の ID トークンを発行できません。
- カスタムクレーム、トークンイントロスペクション、スコープ付きアクセス、細かなセッショントークン管理など、OAuth 2.1 / OIDC システムに不可欠な機能がありません。
Logto ユーザーの一人がこう語っています:
もちろん Supabase も知っているけれど、私のIdP として使うにはカスタム OIDC ミドルウェアが必要になると思います。
これに対し、Logto、Auth0、Keycloak などは完全な OIDC プロバイダーとして動作し、複雑なログインフローや SSO 連携、高度なトークン発行に対応しており、マルチシステムアイデンティティ基盤に不可欠です。
特に AI 時代では、製品が AI エージェントと連携したり MCP サーバーとして動作するには、OAuth や OIDC サポートが必須です。これがない場合、AI エージェントのエコシステムと連携できず、大きな統合機会を逃すことになります。
認可モデルが弱い(RBAC/ABAC の不在)
Supabase には認可管理用の仕組みが備わっていません:
- RBAC(ロールベースアクセス制御) をユーザーに割り当てたり権限付与する仕組みがありません。
- 認可ロジックは PostgreSQL の Row Level Security (RLS) で手動実装が必要。強力ですが低レイヤーで、規模の拡大に従い運用が困難となります。
- 組織/チーム階層、ユーザーロール対応 UI、ロール・テナント所有・権限に基づく条件付きアクセスポリシーの導入も不可。
- スコープやポリシーをトークンと紐付ける仕組みがなく、セキュアな API やマイクロサービス連携が難しくなります。
そのため マルチテナント型 SaaS や B2B プラットフォーム、エンタープライズ水準のアクセス制御が必要な用途には不向き です。
よくある回避策・運用パターン
これらの制約のため、多くのチームが Supabase を専用アイデンティティプロバイダーと併用しています:
- Logto – 完全 OIDC プロバイダー・RBAC・組織管理・マルチテナント認証もできる OSS 認証ソリューション
- Auth0 / Okta – プロトコル面・セキュリティ面で拡張性の高い商用 ID プラットフォーム
- Clerk / Descope – アイデンティティフローをビジュアルに管理できる、開発者向け認証ツール
これらのシステムでユーザー認証や SSO、認可ロジックを担保しつつ、Supabase はストレージやエッジ関数、リアルタイム API を担当する形です。
まとめ: Supabase の弱点
機能 | Supabase ステータス | 制限内容 |
---|---|---|
OIDC プロバイダー | ❌ 未対応 | ユーザープールの外部公開不可 |
トークンカスタマイズ | ❌ 最小限のみ | カスタムクレーム・スコープ・イントロ不可 |
RBAC | ❌ RLS で手動実装 | 組み込みのロール/権限管理なし |
組織/テナント階層 | ❌ 未対応 | 組織・チーム・ロール割当機能なし |
ビジュアルポリシー管理 | ❌ 不足 | すべて SQL/RLS で手動運用 |
まとめると、Supabase はデベロッパーファーストなバックエンド体験で際立っていますが、セキュアなアイデンティティ・SSO・高度な認可については、モダンアプリに求められる機能や抽象化レイヤーが足りません。マルチテナント認証、企業向け SSO、きめ細かなアクセス制御がある場合は、専門のアイデンティティソリューションとの併用を強くおすすめします。
成長企業の移行パターン
多くの AI 企業は Supabase を優れたスタート地点と捉えつつ、拡大に伴い最終的にはより専門的なサービスへの移行を計画します。この「卒業と移行」パターンは一般的で、スピード重視で Supabase を使い始め、成長後にエンタープライズソリューションへ移る流れがよく見られます。
Supabase 今後の展望・推奨事項
AI スタートアップに理想的なユースケース
Supabase が特に適しているのは:
- AI MVP 開発:迅速なプロトタイプ構築と検証
- 小~中規模 AI アプリ:数千ユーザー規模まで
- 開発者ツール・AI 支援アプリ:スピード最優先のケース
- 一般消費向け AI アプリ:シンプルなユーザー管理・データ保管
他サービスを検討すべきタイミング
AI 企業は以下のケースで他社サービスも検討した方が良いでしょう:
- 複雑なマルチテナンシー要件:権限モデルの高度化が必要な B2B 向け
- 大規模ベクトル演算:ベクトル DB の専用パフォーマンスが必要な場合
- 厳しいコンプライアンス要件:業界規制の厳しいケース
- 複雑な統合要件:エンタープライズシステムとの深い連携が必須な場合
戦略的な推奨
Supabase を検討している AI スタートアップ向けのポイント:
- まずは Supabase で スピーディな開発・検証を始めよう
- 将来的な移行も計画 しておき、要件が複雑になれば適切にステップアップ
- 認可要件は初期から明確化 して、カスタム実装の必要性を見極めよう
- ハイブリッド戦略も視野に。基本機能は Supabase、特殊要件は専門サービスの組み合わせもアリ
Supabase のバックエンド + Logto の認証システムで AI 対応アプリを構築しよう
Supabase は多数の AI スタートアップに選ばれています。理由は「とにかく開発スピード重視」の現場で圧倒的なスピード感を生み出せるからです。拡大期もこれ一つで乗り切るのは難しいかもしれませんが、立ち上げフェーズでは十分な打ち上げ台となり、とにかく「AI のコアに集中」したいときには最適解といえます。
開発体験はスムーズで料金も手ごろ、初期に必要な機能も網羅しています。ただし、どこに限界があるかを事前に知り、要求が変わったときの進化プランも立てておくべきです。
できるだけ早く・低コストで「アイデア → 動くプロダクト」へ進めたいなら、Supabase は現実的にトップクラスの選択肢です。
しかしたとえば認証分野、特に AI エージェントと連携したり OAuth/OIDC 対応を考える場合は、より特化したソリューションが求められます。そこで「Logto」 の出番です。
Logto は完全オープンソースで開発者フレンドリー。AI エージェント認証や MCP 型インフラなど、最新のアイデンティティ要件にも対応すべく最初から設計されています。Supabase を既に使っている場合も Logto を組み合わせれば、面倒な認証レイヤーを一から自作せずに本格的な ID 管理が手に入ります。
セットアップ手順をまとめたシンプルな Logto + Supabase 連携ガイド も公開中。サインアップ・ログイン・セッション管理も数分で実装できます。